2008年2月29日金曜日

メタボ特定健診とメンタルヘルス

2008.2.20に「産業保健と医療制度改革の展望」(講師:岡山大学、衛生学・予防医学教授、土居弘幸先生)」を聞いてきました。



今年4月から始まるメタボリック症候群に対する「特定健診・特定保健指導」と、会社における「メンタルヘルス」の2つの話題が特に興味深かったです。自分なりにまとめた資料も添付しておきます。興味のある方はご覧下さい。



メタボリック症候群に対する「特定健診・特定保健指導」の制度の概要についてはレスの方で解説しますが、今回の講演で興味深かったのは、疾病の統計ではハイリスク群の発病率が問題にされがちだが、実際には母集団に発病率をかけた実患者数の方が医療費全体へのインパクトは大きく、医療費抑制を本気で考えるなら、集団全体に介入するポピュレーション・アプローチ(税制や法規制)の方がはるかに有効であるということです。塾長がよく言われる広い視野から事例を眺めてみる実例の一つと思いましたが、一見健康に見える人への介入は現在の医療制度のみでは限界があり、ITを利用した健康増進プログラムを考える必要があると思いました。
また、「特定健診・特定保健指導」の制度の詳細を聞くと、実際にはメタボの管理を保険者に丸投げした上に(対象者になぜか配偶者も含まれています)、達成困難な目標(メタボの該当者と予備軍の10%減少)を掲げて、目標達成が出来ないときは後期高齢者制度への支援金(拠出金)をペナルティにするなど、医療費削減のための巧妙な罠のような印象も受けました。



次に「メンタルヘルス」ですが、「安全配慮義務」の概念が詳しく説明されました。安全配慮義務とは事業者は労働者を安全に労働させるという、民事上の義務ですが、
事業者は予見しうるのであれば、何らかの対策を講じる義務がある、と解釈されているようです。それ故に過労自殺などの民事訴訟では、長時間労働を知りながら安全配慮のための具体的な措置を行わなかったという安全配慮義務の不履行について、遺族が 事業者を訴えている事例が増加し、遺族が勝訴した過労自殺の民事訴訟では1億円以上の損害賠償金の支払いが事業者に命じられていることが報告されていました。



これら2つのことは一般企業にとっても新たな負担を強いられるものであり、十分に研究を行って対策を講じなおかないと企業にとって大きなリスクになることがわかりました。







2008年2月17日日曜日

メタボリック症候群に対する「特定健診・特定保健指導」

今年4月から始まるメタボリック症候群に対する「特定健診・特定保健指導」について、4期の則安先生が講演されました。



「メタボ健診」については知らないことが多く、勉強になりました。



講演を聞いて感じたことは、医療サイドのみの介入では不十分で、社会全体で取り組まないとメタボ患者の減少は実現できないということです。



ただ、メタボの患者が減らなければ後期高齢者制度への支援金が増えるカラクリになっており、厚労省の役人の頭の良さに驚きました。







同じような内容が【日経メディカル2月号特集「疑問解消!メタボ健診Q&A」連動特集Vol.1】にも述べられています。



http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/200802/505483.html



以下に抜粋を示します。







 2008年4月1日からメタボリックシンドローム(以下、メタボ症候群)に焦点を当てた「特定健診・特定保健指導」という新しい健診制度がスタートする。「医療費適正化計画」の一環として、医療費の2兆円削減をうたう新事業だ。
 対象は40~74歳の国民5600万人。これほどの規模の事業にもかかわらず、その具体像は本来の受益者である国民はもちろん、実働部隊となる医療関係者にも十分に伝わっていない。



 メタボ健診の実施者は、市町村ではなく、国民健康保険、被用者保険(組合健保、政管健保)などの保険者になる。対象は、40~74歳の被保険者と被扶養者。なお、75歳以上の国民は「後期高齢者医療制度」という新たな医療保険制度に加入することになり、各都道府県の広域医療連合が実施する住民健診を、引き続き受けることになる。



 メタボ健診では、健診を実施し、階層化(特定保健指導対象者の選定)を行った後、保健指導の対象となった受診者に、保健指導の開始を通知する。このうち、医師が関与するのは、健診と保健指導だけで、保健指導が必要な人は保険者が選定する。
 評価されるのは保険者で、5年後の2012年度までに、特定健診の受診率70%、特定保健指導の実施率45%、さらにメタボ症候群の該当者と予備軍の10%減少が、目標値(参酌標準)とされた。そして、この目標を達成できなかった保険者は、後期高齢者制度への支援金(拠出金)に10%程度のペナルティを加算されることになった。

 4月を目前にしながら、メタボ健診の体制は十分に整っていない。まず、健診受診者に渡す受診券の発行が7月ころにずれ込みそうだ。これに伴って、10月ころまでに完了させる予定だった08年度の健診が、来年3月の年度末まで実施期間が延長される見込み。その結果、実施費用の請求が09年度にまたがるという、事務的な混乱が予想されている。保健指導を実施する人材不足も指摘されている。さらに、健診データは厚労省が定める電子的標準フォーマットにして提出することになっているが、その入力ソフトに多くのバグ(欠陥)が見付かり、当面は紙ベースでのデータ処理となる。







2008年2月16日土曜日

小松秀樹「医療崩壊」に対する慧眼

本ブログでも小松秀樹氏の医療に対する意見を紹介してきましたが、最近、小松氏の「医療崩壊」に対して深層をえぐるような感想が書かれ、そして解決法といえるか、行き着く先についての冷静な分析が書かれているブログを発見しました。



http://d.hatena.ne.jp/jmiyaza/20070117/1168961863



全文は非常に長いので、気になったところだけ抜粋します。それにしても、これが同じ医師かと思うほど、深い分析で完全に脱帽しました。文中に出てくる山本七平は、私も最近興味を持っており、本ブログでも紹介していきたいと思います。



 山口氏は、「それが起こったか、起こらなかったかというのは大きな問題ではない。仮に起こったとしても別にどうということではない」という乾いた姿勢が大事なのだという。だが、おそらく、こういうことがおきるのは湿った日本に限ったことではなく、フランスでもアメリカでもおこるのであり、人間の根っこの部分にひそむ何かがそういうものを起こさせているのである。たまたま現在の日本の医療はそういう強い風の中にいるということであろうが、その風向きが、医療の本質を啓蒙したり、科学的な理解を普及させたりすることで変るとは思えない。新たなマス・ヒステリーの対象が見つけられることにより、風が別の方向へ去っていることがいずれおきるというだけであろう。



 山本七平氏の「「空気」の研究」(山本七平ライブラリー① 文藝春秋 1997年)に、山本氏が、日本の道徳とは「現に自分が行なっていることの規範を言葉にすることを禁じており、それを口にすれば、たとえそれが事実でも、“口にしたということが不道徳行為”と見なされる。したがってそれを絶対に口にしてはいけない」というものである」というと、それをきいたある雑誌記者が「そんなことを言ったら大変なことになります」という場面がある。



 山本氏がよく例にあげるのが戦艦大和の出撃である。だれがどう考えてもそれは暴挙であり、愚挙であった。当事者たちが何よりもよくそれを知っていた。理性による判断ではそういう結論に当然なるしかない。しかし、その最高責任者は、後にいっている。「戦後、本作戦の無謀を難詰する世論や史家の論評に対しては、私は当時ああせざるを得なかったと答うる以上に弁疏しようと思わない。」 たぶん、不二家の責任者もそういうのであろうと思う。あとから思うと異常なことがその渦中においては当然と思われることはしばしばあるのである。



 日本は「空気」の支配する国であり、それに対抗する手段は「水をさす」ことしかないと山本氏はいう。山本氏は、ある時期、公害問題についてはまったく理性的な科学的な議論はできなかったという。カドミウムによるとされているイタイタイ病は実際にはそうではないのだという論は根強くあるらしいが、そういう議論は一切できない時期があったらしい。イタイイタイ病患者の悲惨な病状がすべてであり、その患者さんたち救済に有効に働くものは善、それを阻害するものは悪という「空気」ができているところでは、科学的議論、理性的な議論などは一顧だにされないのである。



 今、医療ミスのために悲惨な状態になっている患者さんが目の前にいるとすれば、医療の限界・人間の能力の限界からいってそういう事態はある確率の上で避けれられない、などという議論が通用することは期待できないとわたくしは思っている。その患者さんの救済に役立つことが善、それを阻害することは悪なのであって、それが「空気」である。それに水をさせるものは何か? それがわたくしは「医療崩壊」なのではないかと思っている。医療がある程度、本当に崩壊しないと、現在の医療を取巻いている「空気」はなかなか変らないのではないかと思っている。